レバ刺しロシアンルーレット

焼き肉屋でユッケを食べた子供達が死んでいるそうです。
なんとも悲しい話です。ユッケなぞ食べなくても、他に美味なる食品はいくらでもあろうに。
自ら好き好んでユッケを食べる子供はあまりいないように思われますゆえ、誰かを非難する前にまず、10歳以下の子供に生肉を食べさせることを禁じねばなりません。
しかし、ユッケなどとは段違いに危険な物体があります。(あえて食品とは言わない。)レバ刺しです。


仕事柄、カンピロバクター食中毒は沢山見てきました。熱発を伴う粘血性下痢便の場合、必ず焼き肉屋にいってないか聞きますが、注意すべき点は潜伏期間が平均2日、最長で10日余りあるということです。この期間内に疑わしき物体の摂取がある場合、抗生物質投与前に必ず便培養が必要です。
あきれるのが「うちは毎朝レバ刺しを試食しているから、心配ない」という店主が存在することです。細菌の知識がないというのは、調理師という国家資格者として致命的と思うのですが。


胆汁中にカンピロバクターは10-30%存在するといいます。*1 当然の事です。胆管は腸管にダイレクトにつながっています。ふだんは川の流れの様に胆汁が細菌をゆっくりと押し流そうとしていますが、比較的簡単に淀みや逆流が生じてしまいます。
さらに、肝臓のどこをどう切っても、胆管を避ける事は出来ません。肝臓を直径2mmほどの細い針で2cmほど突いても、必ず、100%の確率で細いレベルの胆管には当たります。くどいようですが、100%です。
冷凍してもカンピロは死にません。冷凍で細菌は滅菌できません。
つまり、レバ刺しを食べる事はロシアンルーレットと同じです。レバ刺し好きの貴兄が今日まで無事だったからと言って、明日もOKかは誰も知りません。


とある料理漫画の原作者がブログで、レバ刺しを非難していました。原作者は九州大学の某先生がお書きになった記事をご覧になったそうです。ゆえにKT先生の主張するところは概ね正しいのですが、勘違いもあるようです。肝臓は様々な毒物を処理する器官ですが、毒物は肝臓で集められて終わり、という訳ではなくて、そこで無毒化され、尿に排泄されたり、胆汁中に排泄されたりします。むしろ肝臓は鉄分や亜鉛などを豊富に含み、加熱する分においては申し分ない食品です。
問題は、ウシを不潔な密集した環境で、抗生物質をばんばん使用して飼育すること。その結果耐性菌が増えていって、生食で感染するのは非常に危険!!な訳です。新キノロン系やマクロライド系抗生剤が無効なカンピロが増えているのは事実です。怖い話です。
件の漫画で陶芸の大家KY先生は健康なウシのレバー刺しを見てよし、としていましたから、これも怖い話です。


焼肉店が牛豚鶏の生肉やレバ刺しを何の警告も無く客に提供するのはやめてほしいです。我が国古来のものでもない、歴史的にも浅い、いかがわしい食習慣は原則的に禁止すべきだと思います。さもなくばメニューに「レバ刺しにはカンピロバクターや病原性大腸菌等に感染するリスクがあります」と明記すべきです。
それでも食べたい人はどうぞ。レバ刺しを命よりも愛しておられるなら、誰も貴方の行動を止めません。
でも、くどいようですが、子供には食べさせてはなりません。絶対に。