偽医者2匹

この間Dear Doctorの話したら、いきなりですか。


「常勤医いない…」テレビで窮状知り、免許ないのに手助け志願
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100509-00000530-san-soci
リンク切れなので貼りますね。
引用はしめ。
医師不足に悩む岩手県宮古市の県立宮古病院で、10日着任する予定だった男女2人が、医師免許を持っていなかったことが判明。県警宮古署は8日夜、医師法違反の疑いで、自称・大阪市在住の無職、
一宮輝美容疑者(44)を逮捕し、男(38)からも事情を聴いている。
一宮容疑者は容疑を認めているという。

 宮古署によると、一宮容疑者の逮捕容疑は、8日夕、宮古市内で宮古病院の職員に対し、医師免許がないのに医師と偽った疑い。

 同署や病院関係者によると、一宮容疑者は平成20年11月、テレビ番組で循環器医がいない病院の実情を知り、勤務を名乗り出た。「大阪大医学部出身で大阪市内の赤十字病院の救急専門医だ。手助けしたい」とうそをついていたという。

 宮古病院や県医療局によると、面接などを経て2人の採用を決めたが、2人は免許提示を求めても、「職場に置いてある」などと出し渋っていたという。また「もめるから大学に照会するな」「患者とトラブルがあり勤務先は自分の氏名を公表しない」
 とうそを繰り返し、発覚を逃れていた。

 病院に免許のコピーが届いたのは今月6日。ところが、登録当時の厚生相の公印がなく、医政局長の氏名も別人だった。通報を受けた宮古署は、2人が“着任”のため市内のホテルに投宿した8日、事情聴取を行った。

 菅野千治院長は「詰めが甘かった。住民の高い期待を裏切る結果となり申し訳ない」と話している。

 宮古病院は約3年前から循環器の常勤医がおらず、心臓疾患の救急患者は、約2時間かけて盛岡市に搬送されている。
引用おわりん。

医師不足にあえぐ岩手県宮古病院に待望の常勤医師が2名応募したものの、いずれも偽物。
普通、履歴書といっしょに免許のコピーは送るもの。というか、国家試験に合格しめでたく免許が届いた時、オーベンに言われて訳も分からず10枚ほどコピーを取ってあったのですが、その後非常に役に立ちました。
余談ですが、国試に合格しただけでは免許は届きません。申請書を書いて届くまでに半月からひと月ほどかかりました。面倒くさくて数か月ほったらかしにして、秋ごろの日付で医籍登録された猛者もいるそうですが、それはさすがに恥ずかしいという話でした。というか非常にまずいです。

で、登録当時の厚生相ってだれだったっけ?医政局長の氏名なんて書いてあったっけ?
医師免許を勤務先に置いたことは一度もありません。そのためだけに貸金庫を借りています。なにせモノをなくすのは得意中の得意ですので。

でも、事務方が偽物と判断した根拠が医師免許だけとは。事務の方々が日頃どのように常勤医師たちと接していらっしゃったか、伺える話であります。医師免許があっても「医者」でない人物は、おります。そんなことはどうでもいいですが。
あるいは「薄々怪しい」と思いながらも、面接まで持ち込まざるを得なかったのか。だとしたら悲しい話です。へき地医療の窮乏ここに至れり。


偽医者たちが件の映画を見ていたかは知りませんが、彼らの動機は、手助けというよりは窮していれば騙しやすいのではないか、という下心のようであります。(それは初期段階では成功したといえるかもしれません)が、僻地で偽医者稼業をなさるのは、絶対に絶対にお勧めできません。公的病院を選択した時点で、確実に終わっています。


老婆心ながら、そういう所で医者が務まるには、医学的知識もさることながら、ある種の身のこなしが必要です。
急性心筋梗塞を目の前にして、アスピリンを噛み砕かせて平然と「これで様子見ましょう」と微笑むことができるとか
来院時心停止を目の前にして、「蘇生してベジになったら可哀そうでしょ」と手も触れない。
そこまでの境地に達すれば僻地もいいでしょう。知識と言うのは、面の皮の厚さに寄与しなければ何の意味もありません。
彼らがどの程度「医者」を偽装する覚悟がおありだったのか、興味深いです。



ま、まじめな話、僻地は急変時の対応を含めてしっかり勉強できてないと確実にはまります。(助けてくれる看護師は、いるかもしれませんけどね。)
偽医者たちが心電図を読めたかは知りませんが(最近は判定機能付きの心電計が当たり前ですが)、僻地で心肺停止とか心室細動とか喘息重積発作とか、本物に当たる確率は異様に高いです。なにせ医者が少ないですから。
昔は、そういう環境で「武者修行」という考えもあったのですけど。

あるいは、国策で医者の数を増やすと、なぜか偽医者の数も増えていたりして。おかしいですねぇ。