曲がり角と携帯

自分が医者になった頃、ポケベルが普通だった。
知り合いが買った携帯を初めて見たのが確か1994か5年頃。すごく高価で、すぐ通話状態が悪くなった記憶がある。
院内の連絡は内線しかない。看護師はいつも電話で主治医を捜しまくっていた。
あるいは、NTTのポケベルで病棟の内線番号が表示されたり。大きい病院だと、病院ポケベルがなった後、内線で自分の割当番号を押すと、ポケベルを鳴らした電話につながる仕組み。でも、その頃には鳴らした張本人は電話のそばにいなくて、話が通じないことが多々あったり。

あのころは、当直していて入院患者さんが急変しても、主治医に連絡がつかないことが結構あった。何々先生は今頃はここのパチンコ屋にいる、とか、どこの雀荘にいる、とか。個人情報は看護師の方が把握していた。
みんな飲みにいっては、医者少ないね、とか、すぐにいっぱいになって、俺らの就職先なんかないよ、とか愚痴ったりしていた。

いつごろから、職場から笑いが消え、殺伐としてきたのだろう。

自分が携帯を初めて持ったのは1997年。ほんの2-3年で、随分安くなっていた。間もなく院内PHSが普及する。便利な物だとは思ったが、主治医に連絡する際の閾値が明らかに下がった。それは夜間院外の携帯に関しても同様である。
何でも無い確認とか、指示漏れとか。明日の抗生剤が無いけれど、中止でいいのかとか、いちいち聞いてくる。それは医療安全上好ましいことだとは思うが、何も夜中の12時に聞くことではなかろう。携帯の着信音は確実に、医者の神経をほんの少しずつ持続的に削っていった気がする。

今現在でも、傍らに携帯を持っているか、電池は切れていないか、かなり強迫的に確認する。病棟には自宅電話番号は伝えてある。でも、夜中に家族は起こしたくない。できれば。

同僚で、病院からの呼び出し音にダース・ベイダーのテーマを使っている人がいた。
小生、ミッキーマウスマーチ。ネズミのやうに働き者か…。

http://d.hatena.ne.jp/DrPooh/20081120/1227171825
http://obgy.typepad.jp/blog/2008/11/post-1341-43.html