薬を飲まない患者さん

これは、医者になって数年目にある先輩から教えていただいた。
病院から出た薬をそのまま捨てる患者さんがいる。
ひどいのになると、病院の前の屑篭に捨ててあることがある。
そうして、2週間なり4週間後に再診に来られる訳である。
そんな馬鹿な、と思った。
ただ、自分が患者になった経験上、如何に必要な薬と分かっていても、飲み忘れは避けられないものなのだ。複数の処方が出ている場合、必ずズレが生じる。機械の様に几帳面な人もいるが(そういう人は一見して分かる)、そうでない方が普通だろう。だから、普通は数ヶ月に1回、ズレを修正する必要が出てくる。出てこないのがおかしい。
非常に優等生の患者さんに、ある日、意を決して聞いてみた。若干きまり悪そうに、薬を捨てていたとお答えになった。内心愕然としながら、よくぞ正直に、と思った。
数分話すだけの病院外来では、何故この薬を継続しなければならないのか、説明が困難だ。医者が当直あけで疲労困憊していると、患者さんも遠慮して聞きづらいのかもしれない。
それでも、何故?という感は拭えない。患者さんは何の為に高い金と貴重な時間を費やして通院しているのだろう。
ある患者さんはこう言った。「自分は高齢で、いつ病気するか分からない。そのとき、この病院に入院したいから、顔つなぎの為に。」
かかりつけなら、いざという時、拒否されることは少ないだろうと。
無駄な努力と言うなかれ、誠に涙ぐましい話である。でも、心中複雑なのは、結局医者を信頼するよりは病院に期待するという話なのだ。医療経済上大いなる無駄なのは言うまでもない。