医者はお馬鹿さん

医者はお馬鹿さんである。そうでなければ内科や外科の勤務医など出来ない。


学生時代は、かなり遊んだと思う。
勉強は必要最小限。講義は9割は出ていたが。
基礎実習でウエアの上に白衣を着ていて、講師にからかわれた。
でも、実習が終わったら練習に直行したいのだから、仕方ない。
6年になって、院内実習が終わって、試験のシーズンに入ると、下宿から大学まで走って、図書室で勉強した。
数ヶ月続く卒業試験。異常にハイになったり、ブルーになったり。
連れとの取るに足らない馬鹿話が何よりも救いだった。
耐えきれなくなるやつも何人か出た。

当時流行った、愛と青春のなんちゃらという士官学校の話の映画を見ていると、自分たちの境遇に割と似ていた。
みんなそれぞれの思いを抱いて学校に入ったが、6年経てば、いなくなるやつが何人かいた。
切ないが、当時の自分にはどうすることもできなかった。

そうして電気スタンドを抱えて国家試験を受け、病棟業務が始まった。合格発表も出てないうちから。

以来、まとまった休みは新婚旅行くらい。
ロードショーやコンサートなど行ったことがない。学会の夜、ライブに顔を出す程度。

それだけ働いて、世の中少しはましになればいいんだけど、ひどくなる一方。


最近高齢者の受診抑制が強まっている。
医療を本当に必要とする人は弱者だ。自分で自分をどうすることもできない。家族もどうすることもできない。
独居で介護度5の老人が、かたくなに入所を拒否し、火の気のない自宅でひとり横たわっていることを希望する。誰の世話にもなりたくないから。
月に1度の訪問診療と日に3回のヘルパー訪問がすべて。
本心では、暖かい所で誰かとつながっているのが幸せと思っても、彼は尊厳にかけて、それを認めはしない。

経済優先の世の中で、彼はこぼれ落ちてしまう。そういう人を相手にするのが医療だと思っていた。


医療崩壊を口実に、混合診療や自由化の流れが強まっている。だが、医療は市場主義にはなじまない。
勤務医には自分の給与と保険収入や医療行政などなんの関係もない。目の前の患者がいるだけだ。

金なんて米と本が買えるだけあればよい、と思っていた。

ああ、医者なんて、本当にお馬鹿さんじゃないと勤まらない。