小児科雑想

夜、兄弟と取っ組み合いで騒いでいた末の息子がびーびー泣いている。片腕をだらんとさせている。

型通りの肘内障修復手技を試みたところ、クリックとともに腕が挙るようになった。よかったよかった。
ここのところ親父の権威失墜が著しかったが、若干面目を施せたか。
「こんなのでも、世間一般のご家庭では、夜間救急外来に整形外科医を捜して走り回るんだよ」と言うと、日頃の親父の苦労を分かっているのか分かっていないのか、ふーんという生返事。

思えば、これほど気軽に夜間救急にかかれるようになったのは、

1)自家用車の普及
2)国民皆保険制度+各種補助
3)コンビニの出現による大衆の意識変化

があるだろう。
昔、兄弟が医者に往診してもらう際、当時御馳走のトンカツを肉屋に買いにいかされた、などと宮崎駿の手記にあった。(ちゃかり宮崎少年は自分用に「脂身100%のトンカツ」を注文したりする)
私が子供の頃、麻疹かなにかで往診を受けた時、母が医師にそっと何かを掴ませたような記憶がある。(今思い出した)

昔もクレイマーとかモンスターみたいな生物は存在したのだが、周囲にたしなめるような雰囲気はあった。
松田道雄の著作で、「小児科の医者も人間だから夜にむやみにおこさないでほしい」とか、
「気の弱い医者は訴訟などおこされたら自殺するかもしれない」なんてあった。
その当時とは小児科医なり内科一般医のおかれた状況は全然違う。

80年代はじめ、上の先生からアメリカの惨状を聞き、いまから医者するの気の毒、などと妙な同情を受けた。
その先生方も半分がてらリタイアされた。
厳密に当時のアメリカと今の日本を比較は出来ないと思うが、当の医者自体、どちらが幸せなのかどうか、分からない。
ひとつ言えるのは、今が変革期、過渡期ということであろう。

言うまでもないことだが、昔の日本が決していい状態だったと主張する気はさらさらない。


昨年老父が郷里の病院に入院したが、昔とは考えられぬ対応であったと、感心していた。

要は、財政的、人員的バックアップなしに、それらのサービス向上がなされているのだ。
つまりは医者の労働強化。
その間も医学は進歩し、昔とは比べ物にならないほど手数の増加がみられる。
昔は、1人の内科医が40人の入院患者を受け持っていたのだ。
なにしろ、立派な地域の基幹病院に内科の常勤がいなかったのだ。

そんな時代を知る現役の医者も少なくなってきた。
専門化され、細分化され、高度化する。
兵力の補充がなされる限り、正常な進化だと思う。