過剰な期待感

ある種の精神疾患を抱えた患者さんとの対話を通して感じたこと。
彼は、自分の身体に現れる様々な症状に、救いを求めている。客観的に診て、その多くは精神疾患から由来すると判断されたが、彼自身はそれを納得できない。症状はあくまでもリアルであり、常日頃服用しているベンゾジアゼピンなり抗うつ剤のほかにいい薬があるのではないか?早く自分を完全な健康状態にしてくれる薬は無いだろうか?そう考え、数多くの医療機関を訪ね、自宅には手を付けていない薬の山が築かれる。

自分は精神神経科の医者ではないので、本来お帰りいただくべき種類の患者さんなのだが、何の役にも立たないことを承知で耳を傾けるうち、日本全体がこのような得体の知れない期待感に満ち満ちているのではないかと考える。
スペシャル特番で特集される、神の手を持つ名医、ハイレベルの医療を提供する病院、果ては理想の医療を提供する北欧の国々など。

そういう「日本の医療は駄目なんだ」という前提で語られる報道から、一歩踏み出すメディアが出てきたことは興味深い。

http://d.hatena.ne.jp/DrPooh/20080917/1221637132
内田樹氏はお子さんに障害があり、医療を見る目はその分深く、理にかなった発言をされる方である。
今の所、日本のメディアの中枢にある高位の方々が無理解な発言を繰り返しているわけだが、(http://d.hatena.ne.jp/haohao_x/20080910アウトサイダーが医療を値踏みするような報道から、実際に医療を受ける立場で事態の改善を考えるようなスタンスに移行していくのが本来の姿だと思う。これは過剰な期待かもしれないけど。