病院の新陳代謝

10年ほど前、酷い場面に出くわしたことがある。
20年ほどその病院に勤めていた外科の先生が、心ならずも退職されることになった。
仲間内の送別会でその先生が男泣きされて、びっくりした。
内視鏡とか検診とか行き場所はあったのだろうけど、その先生はメスを捨てがたく、やや田舎の病院に転勤された。
安い給与で50過ぎて当直業務をこなし、風向き次第で不要品と呼ばれる。
以前はそこから開業という選択肢もあったのだけど、今はそれも茨の道。
公的病院の医者の立場って非常に弱い。看護職や他の技術職ではあり得ない首の切られ方がまかり通っている。医者としてもしがみつくほど居心地の良い場所ではないので、みんなおとなしく去っていくのだが。

他方で、そのような医者の世代交代が新陳代謝を促し、病院のレベルを保っているという現実もある。
若手の医者はそういう光景を見ているので、早めに見切りを付けて開業する。若いからこそ見切りが早い。辛い思いをしながら修行しても、その技術は打ち捨てられる。苦労しても報われない。幸せな人生を送れないロールモデルを並べられたら、人は集まらない。
外科系学会の新規入会数は年々減少傾向にある。

産科医を、外科医を、勤務医を幸せにするにはどうしたらいのだろう。
まず、そこから考えないと公的病院から医者は消滅する。
医師不足と軽薄な世間が騒いでも何が変わろうか。