洗濯船

学生当時住んでいたアパートを、誰彼となく、そう名付けた。
隙間風、雨漏り、6畳一間。歩けばギシギシ。台風で吹き飛びそう。
おまけに、皆、貧乏学生。猫とオババがいたっけ。
某先輩の部屋で、大家が押し入れの布団にキノコを確認したらしい
でも、そんなでも、女の子連れてきた奴もいたっけ。
暗黙の了解でお邪魔はしなかったが「・・・ing」なんて札をドアノブに掛けるいたずらもやったっけ。
エアコンなんて無論ない。とにかく暑かった、バイト三昧の夏休みを思い出す。
あのころ酒を飲みながら語った夢なんて、お笑い草だけれど


15年ほど経ったころ、学会の合間に尋ねてみた。
奇跡のように、洗濯船は建っていた。
ただ、学生は誰もいなかった。
鼻たれだった大家の孫は大学生になっていた。
時代は変わったんだと。


夜遅くに、あのころの馬鹿騒ぎを思い出す
もう30年ほどになるのか。
信じがたいけど、遠いところに来ちゃったな。
まだ、洗濯船はあるのかな?
あそこにいけば、当時の皆と会えるはずないけど、
時々あの淀んだ空気を、夢に見るぜ。
妙に懐かしくなった。