自然ということ

行きつけの店で、マスターの話を聞く。
彼は休日、近所の川べりを歩く。2時間も歩けば海につくそうだ。
葦の生い茂る川辺にカモの親子が暮らしているのを見る。
カモの母親は教育熱心だ。親の後を追わず、ふらふらしている
子ガモをつついて、叱る。そういった身勝手な行動は致命的だからだ。
なぜなら空からはカラスや鳶が常に雛を狙っている。
何週間か散歩の折りにカモの家族を観察していると、次第に
雛の数が減っていくそうだ。
「じゃあ、母親がいなければ、あっという間に全滅ですね。」
そう言いながら、合鴨農法というのを思い出す。
雛だけの集団は、あっという間に全滅するそうだ。
鳥は本能だけで生きているわけではない。大なり小なり
社会性というものがある。後天的な情報が生存率に寄与している。
母がいなければ、雛は無事に育たない。
母性と言うのは、教育されねばうまく育たないらしい。


学生時代付き合っていた女の子は、お母さんが専門職で
ほとんど家事をしなかった(できなかった)らしい。
彼女は、母のような女にはなりたくない、と言っていた。
そのころは金もなく、アパートの一口コンロで料理したりして
休日を過ごしていた。
彼女は気負い込んで手の込んだ料理を作るのだが、その結果は
どこかしらbizarreな香りがしたものだ。


高校卒業の時、大学に行く前、料理に関し祖母に教えを請うたことがある。
口頭では全く要領を得ない。彼女には料理番組でお馴染みの大匙何杯とか、
カップに半分とかそういう概念がないのだ。
醤油はだーっと1回し掛けるとか、味見しながらちびちび追加とか。
だから、必然的に味が安定しない。
数Ⅲとかで凝り固まった頭には、えらく違和感を覚えたものだ。
でも、間違いなくあれは祖母の味だった。


医学は教科書だけでは決して教えられない。
教訓めいたことを言う先輩がいた。
医者がよくしようと思って、結果が悪くなったことはいくらでもある、と。

だからと言って、医学を信じないというのもいかがなものかと。
自然なお産が無上であるという価値観の産科医師が映画になったという。
その事、主張自体は否定しない。
個性というものを否定したくはない。が、
子を失うカモの母の気持ちも、ちと考えて頂きたいと思う。